ブルーライトカット眼鏡で体調不良も目と健康の関係とは?井艸恵美2018.4.2 07:00週刊朝日 ヘルス「春眠暁を覚えず」というほどぐっすり眠れればいいが、不眠に悩んでいる人は多いだろう。実は白内障などの目の病気が、睡眠の質を下げていることが近年わかってきた。好評発売中の週刊朝日ムック「眼の病気&老眼がまるごとわかる2018」から、目の病気と不眠の関係をお届けする。寝つけない、寝てもすっきりしない、途中で起きてしまう──。こうした睡眠の悩みの原因として新たにわかってきたのが、目の病気だ。実は、目と眠りは深く関係している。「眠りと覚醒のリズムをつくる体内時計は、光を浴びることによって調整されています。その光の入り口になるのは目だけなので、目から適切に光を入れることが体内時計の調整には重要なのです」と話すのは、白内障と睡眠の関係を研究する慶応義塾大学医学部眼科学教室の綾木雅彦医師だ。良質な睡眠のカギとなるのが、眠りを誘発する「メラトニン」というホルモンだ。その分泌に、光の中に含まれるブルーライトが作用している。ブルーライトが目の網膜を通して脳の体内時計に届くと、「いまは昼ですよ」と伝達される。反対に夜になってブルーライトが目に入らなくなると、脳の中の松果体(しょうかたい)という部分からメラトニンが分泌されて眠くなる。ところが、白内障になるとブルーライトが網膜まで正常に届かなくなる。白内障は水晶体が黄色や茶色ににごる病気のため、ブルーライトが水晶体を十分に透過できないのだ。「光を浴びても脳まで信号が伝わらず、昼間でも昼か夜かわからないような光環境になります」(綾木医師)このように光の環境が崩れると、体内時計が乱れて睡眠の質が落ちるというわけだ。綾木医師は、白内障手術後の睡眠の変化を調べた。睡眠の質は、ピッツバーグ睡眠尺度という方法で評価する。数値が低いほど、睡眠の質がよい。もともと睡眠の質が悪かった人の手術後の変化を追ってみると、手術後に睡眠時間や眠るまでの時間が改善したことがわかった。白内障手術はにごった水晶体を取り除き、眼内レンズを入れる治療だ。にごりのないレンズで光からの信号が十分に脳に届くことで、体内時計が正常に働くようになる。「白内障の患者は加齢によってメラトニンの分泌がもともと低いため、手術による変化は大きいのです。昼間にしっかりと光が届いているほうが、夜間にメラトニンがたくさん出てよく眠れます。反対に夜間にブルーライトをカットすることも重要です」ちなみに、パソコンやスマートフォンからのブルーライトを遮断するブルーライトカット眼鏡は、睡眠に影響しないのだろうか。「ブルーライトカット眼鏡は疲れ目に効果があると実証されています。ただ、一部の人は昼間にかけるとメラトニンが出て『夜だ』と脳が錯覚し、体調を崩す可能性があります。日中使うときは、低めのカット率で試してから始めることをおすすめします」白内障の眼内レンズにも、透明なものと、ブルーライトの透過性を抑えた黄色い着色タイプのものがある。だが、その差は睡眠に影響するほどはない。レンズの種類よりも、にごった水晶体を取り除くということのほうが、睡眠への影響が大きいからだ。白内障だけでなく、緑内障や加齢黄斑変性も睡眠の質を下げる可能性がある。綾木医師はこう話す。「これらの病気の人は気持ちが落ち込みやすく、うつ状態が睡眠に影響します。緑内障では網膜の中のブルーライトを受容する細胞が死んでしまうからです。重度の緑内障患者は睡眠時の脳波が悪化しているというデータがあります」体内時計の乱れは、不眠だけでなく肥満や高血圧、うつ状態などさまざまな不調につながる。からだのリズムを整えるためにも、目の病気は早めに治療したい。(医療健康編集部・井艸恵美)