(10月9日)夢の再生医療に道を開く人工多能性幹細胞(iPS細胞)を世界に先駆けてつくり出した京都大の山中伸弥教授に、ノーベル医学生理学賞が贈られることが決まった。この部門での日本人受賞は利根川進氏に続いて2人目だ。免疫学や細胞生物学などで数々の大きな貢献をしてきた日本の研究陣のレベルの高さをあらためて世界に示した。山中教授の栄誉を心から祝福したい。ノーベル賞は功績から20~30年待っての受賞が珍しくない。山中教授はiPS細胞を発表してからわずか6年でのスピード受賞となる。発見の重要さに加え、医療を革新的に進歩させる可能性が高く評価されたと言えよう。iPS細胞はさまざまな組織や臓器の細胞になる能力を持つ。万能細胞と呼ばれるゆえんだ。山中教授は2007年、ヒトの皮膚細胞から生み出すことにも成功した。臓器をつくって移植する究極の再生医療に将来、つながっていくことは間違いない。患者本人の細胞を使えることから、拒絶反応などの問題もクリアできる。難病患者の細胞からiPS細胞をいくつもつくり、候補となる治療薬を実際に試しながら最良の薬を探し出す研究も進められている。まさに無限の可能性を秘めている。細胞は皮膚や神経細胞になった時点で、どんな組織・器官の細胞にもなれる万能性を失い、逆戻りはありえないと長く考えられてきた。iPS細胞に先んじて、同じ万能細胞の「胚性幹細胞(ES細胞)」がつくられた段階で、人類は時計の針を逆戻しすることに成功した。しかし、ES細胞を使う研究は胎児になるはずの受精卵の破壊を伴う。これが倫理面の壁になってきた。山中教授の発見が画期的だったのは、万能でありながら、「命」にかかわる問題を回避できることだ。iPS細胞も、ヒトの生殖細胞をつくり出せる時代を迎えようとしている。日本には「(卵子と精子の)受精は認めない」といった基本指針はあるものの、生命倫理をめぐる本格論議は急務と言える。生殖分野の開拓は、各国がしのぎを削り合っているだけに、iPS細胞を生んだ日本こそが国際的な指針づくりを主導すべきではないか。先端研究には国家規模の投資が欠かせない。米国に留学した山中教授が研究資金や環境面で落差を感じてきたのもまた事実だ。今年3月、京都マラソンで寄付を募るなど資金づくりに苦労する姿も見せていた。世界をリードする技術には、特許取得や実用化などで政府の手厚い後押しが求められる。
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