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Monday, April 16, 2018

(エーブィエ バイオファーム) 眠気、疲労の関係: TNF-α(ティー・エヌ・エフ・アルファ)やIL-6(インターロイキン-6)


肥満が眠気をもたらす理由、睡眠時無呼吸ばかりじゃない英国の代表的作家であるチャールズ・ディケンズの小説の1つに『ピクウィック・クラブ』(ちくま文庫)がある。1936年〜37年にかけて上梓された長編で、ディケンズが小説家としてキャリアを積み始めた最初期の作品の1つである。実業界で成功したお人好しの紳士ピクウィック氏が巻き起こすコメディタッチの人間劇なのだが、作中に登場するジョーという少年が睡眠障害の専門医の間ではとても有名で、小説の題名を冠した「ピックウィック症候群」という睡眠障害もある。ピックウィック症候群は現在では睡眠時無呼吸症候群と呼ばれており、この病名であればご存じの方も多いだろう。ジョー少年は肥満で赤ら顔、いつもウトウト居眠りばかりしているのだが、それがまさに睡眠時無呼吸症候群の患者さんの典型的な様子なのである。睡眠時無呼吸症候群には大きく分けて閉塞型と中枢型があり、圧倒的に多いのは閉塞型睡眠時無呼吸症候群(Obstructive sleep apnea syndrome; 以下、OSAS)である。OSASの一番の原因は「舌」。舌は実に大きくて重い筋肉の固まりなので、健康な人でも仰向けの姿勢で寝ていると重力のために咽頭(喉の奥)に落ち込みがちになる。加えて、肥満で咽頭や気道が狭かったり、扁桃腺が大きい人では気道を完全に塞いで息が止まってしまいOSASを発症する。110秒以上の呼吸停止(無呼吸)が1時間あたり5回以上あるとOSASと診断される。重症のOSAS患者になると1分以上続く無呼吸もまれではない。とはいえ、ずっと塞がったままだと死んでしまうので、睡眠中でもさすがに息苦しくなり途中で呼吸が回復するのだが、このときに眠りがいったん浅くなり、時には目覚めてしまう。重症患者の睡眠中の脳波を測定すると、一晩に百回以上も短時間の覚醒が起こり、深い睡眠が全く出現しないことも珍しくない。そのため日中にひどい眠気が出る。ちなみに「ピックウィック症候群」で画像検索をかけるとジョー少年の挿絵が多数出てくる。ご覧いただけばすぐに分かるが、いわゆるリンゴ型と呼ばれる内臓脂肪型肥満体型で、首回りも太く、いかにも息が止まりそうである。赤ら顔はおそらく「多血症」のためと思われる。多血症とは血液中の赤血球が増える病気で、睡眠時無呼吸症候群では睡眠中に酸素が不足するので、それを補うために酸素を運搬するヘモグロビンを含む赤血球が増加するのである。ということで、肥満体の人が眠気を訴えているとOSASを最初に疑うのが睡眠障害外来では常識となっている。ところが、最近の研究によってOSASだけではなく、脂肪細胞それ自体が眠気をもたらしている可能性が指摘されている。一体どういうことなのか。肥満になって脂肪細胞が増えると免疫細胞が入り込んで炎症を起こし、さまざまなサイトカインを分泌する。サイトカインとは免疫物質の一種で、インスリンの作用を妨げるなどして糖尿病を引き起こす原因になる。サイトカインの一部は催眠作用を持つことが分かっていて、このコラムでも感染症やアレルギー性鼻炎で眠気が強くなる原因物質の1つであることをご紹介したことがある。たとえば、TNF-α(ティー・エヌ・エフ・アルファ)やIL-6(インターロイキン-6)と呼ばれるサイトカインはかなり強い眠気をもたらすのだが、肥満があると血液中の濃度が高くなることが明らかになっている。つまり、OSASがあろうがなかろうが、肥満であるというだけでこれらのサイトカインによって眠気が強くなる可能性があるのだ。実際、OSASの有無とは無関係に肥満が眠気の強さと関連していることを明らかにした調査がある。米国ペンシルベニア州の成人1395人を平均7年以上追跡した研究では、当初予想されていたOSASや睡眠時間(睡眠不足)よりも、肥満が慢性的な眠気と最も強く関連していた。ちなみに眠気がないグループのBMIは平均26、眠気が続いていたグループでは平均30であったとのこと。BMIとはBody Mass Index(ボディマスインデックス)の略で、[体重(kg)]÷[身長(m)2]で計算される。身長が170cmの場合、86.7kgあればBMI30になる。ドキッとした読者もおられるのではないだろうか。あなたの眠気も睡眠不足や疲れだけが原因ではないかも。そのうえ、肥満体にOSASが合併すると、肥満だけ、もしくはOSASだけの人よりも眠気をもたらすサイトカインの濃度がさらに高まることが明らかになっている。これはOSASによる毎晩の低酸素ストレスのために炎症が重症化して、サイトカインがますます増えるためであると考えられている。無呼吸とサイトカインのダブルカウンターパンチはキツい。OSAS にはCPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸療法)と呼ばれる効果的な治療法がある。イラストでヒツジ君が着けているマスクと箱形の装置がその治療機だ。睡眠中の呼吸停止を感知すると空気を自動的に送り込み呼吸を回復させる装置で、OSASの大部分はCPAPで消失する。ところがOSASが治っても眠気がなかなか取れないときがあり不思議に思っていたが、肥満そのものが原因だと考えると腑に落ちる。ただ、肥満を解消しなくては眠気がとれないとすれば実に頭の痛い話である。OSASで受診している患者さんの大部分はすでにダイエットを指導されていることが多く、それが難しいことを経験済みだからである。さらに追い打ちをかけるように、多くの肥満者にとって好物である脂質たっぷりの食事もまた眠気をもたらすらしいのである。BMI平均2425以上が肥満)という微妙な体重の方々を対象にしたある研究では、炭水化物やタンパク質に比べて、脂質を摂取すると眠気が強くなることが確認されている。どうやら食事から摂取される脂肪酸の一部がサイトカインの分泌を促進するからではないかと推測されているが詳しいメカニズムは分かっていない。BMI25.5の私としてはこれ以上脂肪の悪口は書きたくないので筆を置くが、ちょっとくらい眠いのは許容範囲内としても、OSASは生活習慣病や心筋梗塞のリスクを高めるなど健康への悪影響が明らかなので、体重は「ちょい太」くらいに留めておくことをお薦めしたい。


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