微細種子が親から放たれて最終的に落ちる森林やその周辺の土壌中には,数多くの多様な菌類が生 息していると考えられる。これら菌従属栄養植物の種子の発芽では,その植物種ごとにこの多様な菌 の中から,ある特定の菌を種・属・科などのレベルで選んで共生菌としていると考えられている 。すなわち,その種子が落ちる場所に相性の良い菌が存在することが,発芽から定着成 功の必須条件になる。微細種子発芽の際の共生菌を明らかにするための発芽実験は,主にラン科植物やシャクジョウソウ の仲間の種子を対象に行われており,特にラン科植物に関しては,植物病原菌として知られる不完全菌類のリゾクトニア属菌が,発芽の際の共生菌として比較的早くから知られている。しかし近年では, そのリゾクトニア属菌が複数の系統にまたがった集合体であることや,リゾクトニア属菌には含まれ ない菌もランの共生菌であることが明らかとなり,さらに,発芽時の共生菌も多様であることが判明 してきている。またランの場合,発芽の際の共生菌は,親個体 から検出される菌と一致していることが多いようである。シャクジョウソウの仲 間でも,発芽から親個体の菌根まで,同じ種類の菌がついていると考えられる。イチヤクソウの仲間の種子発芽に関する研究は,半世紀前の古典的な研究の例があるだけで,ごく 最近までほとんど報告がなされていなかった。これは,研究が行われていなかった訳ではなく,その 発芽を見いだすことが,なかなか出来なかったことが原因であると考えられる 。そしてこの発芽の希少性が,イチヤクソウの仲間の生態に,どのように関わって いるのか興味が持たれてきた。特に,これらイチヤクソウの仲間は,絶対的な菌従属栄養性のシャク ジョウソウの仲間と非常に近縁であるため,これらの植物がその進化の過程でどのように菌従属栄養 性を獲得してきたのかを考える上で,必要な情報であると考えられる。さらに,前述のようにイチヤ クソウの仲間の親個体が作る菌根は,外生菌根菌によるもので,その菌に特異性がないとの報告がな されている。そのため,これらイチヤクソウの仲間の発芽は,ラン科やシャクジョウソウ類などと同 じように,ある程度特異的な菌が共生菌となっているのか,もしくは親個体の菌根と同じく,多様な 菌と共生関係を結んで発芽することが可能なのか,一層興味がもたれるようになった。このような背 景から,ベニバナイチヤクソウを対象に,彼らの種子がどのような条件で発芽し,どのような菌が発 芽の際の共生菌となっているのかを解明するべく調査を行った。
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