混合診療と過剰な医療サービスを提供──韓国のビジネス化する医療 2018年4月2日(月)18時20分 佐々木和義 韓国保健福祉部は2011年から2016年の保険医療実態調査結果を公開した。調査によると人口1000人あたり病床数は13床で、経済協力開発機構OECD加盟国の平均4.7床の2.8倍にのぼっており、入院患者の平均在院日数はOECDの平均8.1日を大きく上回る14.5日だった。また外来患者数もOECD平均6.9に対し韓国は14.6で、医療機器はOECDの平均100万人あたり15.5台の磁気共鳴画像装置(MRI)が韓国は27.2台など、ほとんどの量的指標がOECDの平均を上回っていた。韓国は国民皆保険制度があり、医療費の50%から80%が現物給付される。検査や歯科は健康保険の対象外で、全額自己負担の検査費用は医療機関によって2倍以上の開きがある。
保険外診療を併用する混合診療へ 医療機関は、日本の医院に相当する1次病院と中規模の2次病院、大学病院などの3次病院に分類されている。3次病院の受診は1次または2次による紹介が原則で、紹介状がないと自己負担が割高となるが、紹介状を持たずに訪れる患者は少なくない。少ない診療回数で症状が改善される病院を好む傾向が強く、一度の診療で症状が改善されると名医、数回通っても改善されないとヤブ医者のレッテルが貼られる。そんなこともあってか医師はより確かな診断を下すため、最先端の医療機器を活用する。触診を行わない医師や問診すら行わない医師もいる。高度な検査機器を有さない1次病院は3次病院に検査を依頼する。症状を早期に改善させるため、健康保険が適用されない治療を施し、薬を処方する。
混合診療に否定的な日本 公的医療保険で認められている保険診療と対象にならない保険外診療を併用する混合診療は、日本では保険導入のための「評価療養」や差額ベッドなどの「選定療養」のみ認められており、その他は自由診療の扱いで全額患者負担が原則だ。また、保険診療で必要な医療が提供されるにもかかわらず保険外の負担を求めると、患者の負担が不当に拡大し、安全性や有効性等が確認されていない医療が保険診療と併せて実施されることは科学的根拠のない医療を助長する恐れがあるというのが日本の厚生労働省の見解だ。
熾烈な保険会社の競争が高額な検査や治療の温床に いっぽう韓国では、大規模病院はもとより個人病院でも混合診療が行われている。症状の早期改善だけでなく、医師は患者が負担する医療費のほかに製薬メーカーなどからも報酬を受け取ることがある。健康保険適用外の検査や医療費を民間保険でカバーされる患者は負担を気にせず、混合診療を受け入れる。民間保険各社は医療保険を積極的に販売しており、なかでも免責額を超える入院費や通院費を全額補填する実損填補型の医療保険が人気だ。骨折時やギプスを施術した際に見舞金を支払う特約などがあり、軽い骨折でもギプスを施している例を目にする。保険会社が全額負担すると知って過剰な検査や治療を施す病院があり、熾烈な保険会社間の競争が高額な検査や治療の温床にもなっているのだ。
医療のビジネス化が進む韓国 評価療養にとどまらず、治験ビジネスに取り組んでいる大規模病院がある。新薬開発は認可を取得しようとする国籍者の治験が必須だが、在韓米国人や在韓日本人など韓国に居住する外国人を募集し、国内外の製薬メーカーから新薬の治験を請け負っている。国外メーカーにとっても最新の医療機器など設備が整っている韓国の大規模病院は治験を委託しやすいのだという。ソウルの大規模病院にはレストランやカフェや百貨店も出店し、インフォーメーションデスクはコンシェルジュ並みのサービスを提供するなど、医療サービスを提供するホテルの様相を呈するなど、韓国では医療のビジネス化がますます進んでいる。