Tuesday, May 1, 2012

産総研、新しい遺伝子発現制御技術を開発

体の中で狙った機能性分子をつくる技術-光と熱のエネルギーで遺伝子の発現制御を目指す-<ポイント> ・カーボンナノホーンに牛血清アルブミンを吸着させた複合体は近赤外レーザー光照射で発熱 ・この光発熱システムによる生体内での遺伝子発現制御が可能 ・新しい細胞療法や分子・細胞レベルでの病態の解明のための研究ツールとして期待

<概要> 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)健康工学研究部門【研究部門長 吉田 康一】ストレスシグナル研究グループ【研究グループ長 萩原 義久】都 英次郎 研究員らは、産総研 ナノチューブ応用研究センター【研究センター長 飯島 澄男】および国立大学法人 京都大学【総長 松本 紘】大学院薬学研究科【研究科長 佐治 英郎】と協力して、光によって容易に発熱できるカーボンナノホーン(CNH)の特性(光発熱特性)を利用して、生体内で標的とする生理活性物質を生み出す新しい遺伝子発現制御技術を開発した。 ナノ炭素材料の一つであるCNHは、とりわけバイオメディカル分野で大きな注目を集めている。今回、CNH表面に親水性タンパク質である牛血清アルブミン(BSA)を吸着させたBSA-CNH複合体を作製した。このBSA-CNH複合体を分散させた水溶液に、生体透過性の高い近赤外領域のレーザー光を照射すると効果的に発熱できる。この光発熱システムを熱に反応(熱ショック応答)して遺伝子が発現する形質転換細胞に適用することで、目的とする機能性分子(蛍光タンパク質や発光タンパク質)をマウス生体内で合成できる細胞機能を生体外から遠隔制御できる新たな技術を開発した。今回開発した技術によって、ナノ材料の光発熱特性を利用した、これまでにない概念の細胞療法(細胞を用いる治療法)を実現できる。この技術は、分子・細胞レベルでの病態の解明につながる研究の強力なツールとしても期待される。 なお、この技術の詳細は、米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences USA,PNAS)に2012年4月24日(日本時間)にオンライン掲載される。

<開発の社会的背景> 細胞療法は、がん、免疫疾患、内分泌・代謝疾患、血友病、骨疾患などのさまざまな病気の予防・治療に効果を発揮する。細胞機能を自在に制御できれば、より効果的な治療法の確立が期待できる。一方、ほとんどの細胞は熱ショックに応答して遺伝子発現のスイッチを活性化状態にする遺伝子配列を持つことが知られている。また、この熱ショック応答性の遺伝子配列にタンパク質やペプチドなどの機能性分子に対応した遺伝子を結合させれば、加熱により目的とする機能性分子を産生できる。近年、レーザー光を照射することで熱ショックを与え、それに対する応答を利用して細胞の遺伝子発現を制御しようとする技術に注目が集まっている。しかし、これまで報告されている方法は、生体透過性の低い紫外、可視、赤外光を使用するものであり、正常な細胞や遺伝子に損傷を与える恐れがあるなど応用上の制約があった。

<研究の経緯> CNHは生体透過性の高い波長領域(650~1100nm)のレーザー光により容易に発熱する。これを熱ショックに応答して遺伝子を発現する形質転換細胞に適用して、生理活性物質を生体内で合成させる細胞機能の新たな遠隔制御技術の開発に取り組んだ。 なお、本研究開発の一部は、公益財団法人 国際科学技術財団の2012年研究助成および独立行政法人 日本学術振興会の科学研究費補助金「若手研究(B)(平成23~24年度)」による支援を受けて行ったものである。 また、本研究開発で行った組換えDNA実験ならびに動物実験については、動物愛護管理法を遵守するなど、適切な方法により実施した。具体的には、実験計画を産総研ならびに京都大学の組換えDNA実験委員会および動物実験委員会に申請し、承認を受けてから実験を行った。

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