2012.7.12 05:00
■副作用抑えがん細胞に効果 日本では3人に1人ががんで命を落とす。化学療法でも多数の抗がん剤が開発されてきたが、患者が副作用に苦しむケースは少なくない。こうした中、副作用を抑えながらがん細胞に効果的に作用する、ドラッグデリバリーシステム(DDS)を開発しているのが、ナノキャリア(千葉県柏市)だ。抗がん剤は、そのまま患者に投与すると全身に作用するため、がん細胞だけでなく正常な部分までダメージをうける。同社の中核技術である「ミセル化ナノ粒子」は、「急成長した、がん周辺の血管の隙間が多い性質を利用する」(同社社長室)。このナノ粒子は正常な血管は通り抜けないが、がんの周辺にできる血管の数百ナノメートル(1ナノは10億分の1)の隙間は通り抜けることができる。抗がん剤を取り込んだ、大きさ20~100ナノメートルほどのカプセルは、ゆっくり抗がん剤を放出するよう速度を調整できる。このため、がん細胞に抗がん剤を運ぶ一方で、ナノ粒子が全身を循環しても、薬効成分の濃度はあまり高くならず、副作用を抑えられるという。ミセル化ナノ粒子は東京大学大学院の片岡一則教授、東京女子医科大学の岡野光夫教授らが開発した技術。同社は効果が高い抗がん剤と組み合わせたDDS薬剤を開発している。今月2日には、抗がん剤「ドセタキセル」とナノ粒子を組み合わせた、「ドセタキセルミセル」が国内で物質特許の査定を受けたと発表した。特許料の支払いで特許が成立する。欧州では4月に特許を確保し米国でも審査を受けている。ドセタキセル自体は乳がんや胃がん、食道がん、卵巣がん、前立腺がんなどに効果があるが、嘔吐(おうと)などの消化器官障害や脱毛などの副作用が知られている。1994年から使われ、世界で約2500億円の販売実績があり、2011年には特許が切れている。ドセタキセルミセルは動物実験では、胃がんが縮小し、体重減少が抑えられ、食欲不振などの軽減も確認された。まだ「基礎研究段階だが、応用研究を進め、製薬会社へのライセンスを進めていく」(社長室)方針だ。ほかにも、すでに治験を台湾とシンガポールで行い、先月国内でも申請した「ナノプラチン」など4件のDDS製剤が治験の段階にあり、ドセタキセルミセルはじめ4件の新規開発を進める。「4月に投資会社のウィズ・パートナーズから37億円の出資を受けた」(同)ことで資金も充実し、開発が加速することが期待されている。(広瀬洋治)
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