特別編第22回耳の日セミナー「耳の健康を考える」 毎日新聞2018年3月24日大阪朝刊 耳の日(3月3日)にちなんだ「第22回耳の日セミナー耳の健康を考える」が4日、大阪市北区の毎日新聞オーバルホールで開かれた。耳のしくみと検査、耳鳴り治療の最前線、難聴と認知症などについて3人の専門医が講演し、約450人の参加者は熱心に聴き入っていた。
補聴器は早めの使用を 耳は外耳、中耳、内耳に分かれ、音は外耳から中耳、内耳、そして聴神経、脳へと気導と骨導を通して伝わっていきます。難聴には外耳と中耳の障害である伝音難聴と、内耳と脳中枢の障害でおきる感音難聴があります。伝音難聴の原因としては、耳あかがたまる耳垢栓塞(じこうせんそく)や中耳炎などがあり、これは治療できる難聴です。一方の感音難聴は、内耳でのメニエール病、突発性難聴、騒音性難聴、加齢による老人性難聴のほか、聴神経の腫瘍などがあり、治療しにくい難聴です。聞こえの検査には、標準純音聴力検査のほか言葉の聞き取りを調べる語音聴力検査や聴覚中枢(脳幹)の反応をみる検査があります。これらの検査で難聴の種類を調べます。生まれてきた赤ちゃんに対する検査として、新生児聴覚スクリーニング検査があります。言葉を習得するには、できるだけ早期に難聴を発見して医療、療育につなげることが大切です。厚生労働省は、すべての新生児にこの検査を実施するように市町村に通知を出しており、私たちも積極的に実施するように活動しています。加齢性の難聴は、高い音から聞きにくくなります。体温計の「ピー」と鳴る音がわからなくなり、音が聞こえていても明瞭ではなくなります。周囲の雑音の中でも、聞きたい音を選んで聞く能力があるのですが、この能力が低下します。そのために聞こえに困ってきたら補聴器はできるだけ早いうちから使ってください。身体障害者福祉法によって、難聴程度が基準に達していれば、福祉事務所の認定後に補聴器の交付が受けられます。医師に相談して積極的に利用してください。
不安感断つ療法が有効 日本では10人に1人以上が耳鳴りで通院しているといわれています。その原因は、何らかの理由で難聴になることで生じる正常な脳の反応です。つまり音の刺激がなくなったことで脳が聞こえない状況をなんとか元に戻そうとして、過剰に興奮することから起きているのです。最近の脳の検査で、うつや不安を感じている部位と耳鳴りを感じる部位が同時に興奮していることがわかっています。脳の中で、耳鳴りは不安なもの、しんどいものと認識されているのです。つまり、耳鳴りの治療には、難聴の改善、もしくは不安と耳鳴りのつながりを断ち切ることが大事なのです。耳鳴りは記憶と似ています。忘れることができ、人体には無害といえます。脳がもっと聞こうと過敏になり、「がんばろう」としているのです。その治療法としては、補聴器とカウンセリングが推奨され、有効と立証された薬物(医薬品および医薬部外品)はないとされています。私は初診時に鼓膜の検査をしたあと、カウンセリングを始めます。耳鳴りは誰にでも聞こえ、それほど害のないものだと説明し、不安を減らします。さらに日常生活で音楽やテレビなどの音を常に聞き、耳鳴りから注意をそらす環境作り(音響療法)を患者自身が行うようにします。このほか難聴などで不足している脳への音の刺激を補うため、補聴器を使用します。最初のうちは音を必要以上に大きく感じてしまいますが、私たちの補聴器専門外来では医師、言語聴覚士、認定補聴器技能者と連携して聴覚リハビリテーションを行っています。耳鳴りは治らないといわれてきました。しかし、このカウンセリングと補聴器による順応療法は、耳鳴り患者の9割に効果があることがわかりました。
聞こえが脳活動に影響 日本は超高齢社会となり、認知症は社会全体で取り組まなければならない課題です。中年期以降に発症する難聴、すなわち加齢性の難聴が認知症の大きな危険因子になることが最近の研究でわかりました。聞こえにくいと会話に支障をきたします。社会的参加が制限され、脳活動に影響します。うつにつながる危険性もあり、認知症になる可能性は高まります。加齢は避けることができませんが、難聴への対処は可能です。加齢による難聴は、高い音から聞き取りにくくなり、小さな音が聞こえないというだけでなく、言葉の内容が聞き取れない、雑音があると言葉が聞き取れない、という特徴があります。加齢による難聴は手術で根治できないものの、補聴器を活用することでかなり改善できます。要は、聞くことに不自由を感じたら、なるべく早いうちに使い、操作に慣れることが大事です。聞こえないまま放置していけば、脳は音が聞こえていないことに慣れ、補聴器を使い始めるときに強い違和感を抱きます。重度の難聴者には「人工内耳」を耳に埋め込む手術が行われます。90歳代の人でも全身麻酔ができれば可能です。補聴器や人工内耳とメガネの違いは、補聴器や人工内耳は電池が入った機械だということです。補聴器を買ったら終わり、手術を受けたら終わりではなく、活用にあたってのフィッテング(調整)やトレーニングが必要です。日本耳鼻咽喉科学会では「快聴で人生を楽しく」をキーワードに、今後さまざまな情報を提供していく予定です。暮らし支えて活動大阪府耳鼻咽喉科医会・川嵜(かわさき)良明会長 大阪府耳鼻咽喉(いんこう)科医会には開業医を中心に約700人が所属し、聴覚障害の予防や治療を巡ってさまざまな活動を行っています。今回は耳鳴り治療、難聴と認知症、補聴器の使い方などをとりあげました。耳の健康を考える機会にしてください。大阪市西区の市中央急病診療所では、急な耳鼻咽喉科の病気のため会員の医師が年中無休で対応しています。ご利用ください。
あるが・ひではる 1982年大阪大学医学部卒。大阪大学医学部耳鼻咽喉科助手を経て、大阪市城東区で有賀耳鼻咽喉科開設。
ふくい・ひでと 2005年関西医科大学医学部卒。アメリカのミシガン大学留学後、関西医科大学総合医療センター耳鼻咽喉科・頭頸部外科外来医長。
いのはら・ひでのり 1987年大阪大学医学部卒。同学部耳鼻咽喉科助手、同講師を経て現職。
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