2018年04月20日 京都大学は、糖尿病で壊死した皮膚の再生に有効な人工皮膚が2018年4月に承認されたと発表した。治療が難しい「糖尿病性潰瘍」に効果があり、傷口に貼ると周囲の組織の治癒を促す機能があるという。数ヵ月後の発売を目指している。
治療が難しい「糖尿病性潰瘍」に効果 人工皮膚の開発は、京都大学の鈴木茂彦・名誉教授、坂本道治・医学部附属病院特定講師、森本尚樹・医学部非常勤講師(関西医科大学准教授)らの研究グループによるもので、繊維メーカーのグンゼが製造した。糖尿病患者は、血流の悪化などで足に治療が困難な皮膚潰瘍を生じやすく、壊死が進むと切断のリスクがある。人工皮膚を用いた皮膚再生の治療法があるが、難治性の傷口だと感染症を起こしやすく、利用できなかった。研究グループは、皮膚の再生を促す細胞成長因子「bFGF」に注目。bFGFには、線維芽細胞、血管内皮細胞および表皮細胞の増殖を促進する作用がある。
新たに開発した人工皮膚は、bFGFを吸着して、1週間以上かけてゆっくりと放出する機能がある。京都大学病院臨床研究総合センター(iACT)の支援を受けて、2010年からこの機能性人工皮膚の医師主導治験を実施し、機能性人工皮膚の治療効果は細胞を加えた人工皮膚と同等であることを確認した。このほど新規医療機器として製造承認された。発売は数ヵ月先となるが、「糖尿病性潰瘍」を含めた皮膚再生治療に対する新たな効果的な治療法になるという。
「糖尿病性潰瘍」は足切断のリスクがある「難治性皮膚潰瘍」は、大きな皮膚の欠損や、創傷治癒機転が働きにくくなった傷で、治癒に長い時間がかかる、あるいは治癒しないことがある。代表的な難治性皮膚潰瘍に「糖尿病性潰瘍」がある。糖尿病の合併症である糖尿病性潰瘍は大きな問題となっており、血糖コントロール、血行再建術、創処置(抗菌剤、皮膚潰瘍治療薬、創傷被覆材など)を行っても、うまく治癒せず、四肢切断手術(足趾切断、下腿切断、手指切断など)を行わざるを得ないことが多い。
細胞成長因子を吸着・徐放する人工皮膚開発のもととなったのは、鈴木茂彦・名誉教授らによって開発された、コラーゲンスポンジをシリコーンフィルムで覆った二層構造をもつ人工皮膚。皮膚が欠損した創面に人工皮膚を貼付すると、皮膚再生に必要な細胞や毛細血管がコラーゲンスポンジ内に入り込み、患者自身の擬似真皮が新生され、スポンジ自体は吸収されてなくなる。しかし、この人工皮膚治療は感染に弱く、血行が不良な創面ではうまく皮膚が再生されないという欠点がある。このため、糖尿病性潰瘍などでは効果が十分ではなかった。また、患者の細胞を培養して人工皮膚に含ませる細胞治療では、皮膚再生は促進されるが、治療費が非常に高く、一般的な治療方法として実施するには高いハードルがある。そこで、京都大学の研究チームは従来の人工皮膚を改良し、難治性潰瘍治療薬として広く用いられている「塩基性線維芽細胞増殖因子」(bFGF)を吸着して、1週間以上かけてゆっくりと放出(徐放)する人工皮膚を開発した。京大病院で医師自らが治験を実施2001年に承認された「フィブラストスプレー」は、日本初のbFGF製剤。京都大学は2005年頃に、フィブラストスプレーを人工皮膚に吸着させる技術を考案し、基礎研究を行ってきた。基礎検討の結果、フィブラストスプレー通常投与量の1週間分から2週間分を新規機能性人工皮膚に含ませると、増殖因子の効果がおおよそ10日間程度持続することが分かった。また、従来の人工皮膚では潰瘍からの血流再開に時間がかかり感染することがあったが、機能性人工皮膚では従来の人工皮膚と比較して2分の1から3分の1の期間で擬似真皮が形成されることを非臨床研究で確認した。この機能性人工皮膚が保険治療として広く使用されるようにするためには、医療機器として承認を得る必要がある。医療機器である機能性人工皮膚と医薬品であるbFGFを併用する学術的に高度な臨床試験であり、京大病院で医師自らが治験を行う医師主導治験を計画した。人工皮膚の製造はグンゼが担当、治験に必要なさまざまな準備は京大病院臨床研究総合センター(iACT)が支援を行った。
皮膚再生以外の再生医療にも応用可能2010年から2011年にかけて医師主導の治験を実施し、その成果をもとに、グンゼよりPMDA(医薬品医療機器総合機構)に医療機器として承認申請を行い、承認を得られることになった。細胞成長因子を吸着し徐放することが確認された人工皮膚はこの製品が世界初だ。細胞を含む製品は海外にもあるが、それらに比べるとコストは10分の1程度に抑えることができる。また、細胞製品のような輸送・保管時の厳重な温度管理、有効に使用できる期限の短さなどの問題もない。このため、皮膚再生治療を必要とする患者に、適切な時期に適切な使用ができる。また、今回使用したbFGF以外の成長因子も吸着することが可能であることも確認しており、皮膚再生分野以外の再生医療にも応用も可能だ。
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