2018/5/28付 日本経済新聞 朝刊加齢に伴うのどや舌の筋力低下などによって口からうまく食べられない「摂食嚥下(えんげ)障害」の患者は誤嚥(ごえん)性肺炎などを発症するリスクが高まる。著名人では作家の津本陽さんが誤嚥性肺炎で亡くなった。胃ろうなどチューブを経由した栄養摂取が必要になると生活の質も低くなる。衰え始めた早期から「飲み込む力」を鍛え、高齢になっても口から食べられるように支援する取り組みが求められている。患者の鼻から入れた内視鏡でのどの動きをモニターに映しながら飲み込むコツを伝える浦長瀬医師(神戸市の神鋼記念病院)「のどの奥に少し唾液が残っていますね」。神戸市の神鋼記念病院耳鼻咽喉科、浦長瀬昌宏科長は、兵庫県養父市の河浪繁さん(80)の鼻から内視鏡を挿入し、映し出したモニター画面を指し示した。河浪さんは2年前から誤嚥性肺炎を繰り返している。浦長瀬科長は「唾液がたまるのは、のどがスムーズに動いていないため。こうした唾液が誤って気管に入るとまた肺炎を起こしますよ」と説明する。河浪さんは昨年12月から月1回のペースで浦長瀬科長の「嚥下トレーニング外来」を受診。内視鏡画像を見ながら、飲み込むときののどの動きを教わり、「自宅では1日3、4回、のど仏を上げ下げするトレーニングをしている」という。
のど仏を動かす のど仏の部分(喉頭)が上がると食道の入り口が開く一方、誤って唾液や飲食物が入り込まないように気管や鼻の入り口が閉じる。「喉頭は食道に飲食物を送り込むポンプの役割を果たしている」という浦長瀬科長は「飲み込む力を高めるには、のど仏を動かす訓練が有効」と解説する。同科長は飲み込む力が低下した症状として、(1)痰(たん)がのどによくたまる(2)食事中や食後によくむせる(3)せき払いが増えた――など10項目を挙げる。8項目以上が該当すれば嚥下障害の恐れがあり、耳鼻咽喉科の受診を勧めている。同外来では軽症の摂食嚥下障害の患者を中心に対応している。早い段階から飲み込む仕組みを理解してもらい、「のど仏を上げて止める」などの訓練を続け、飲み込む力を衰えさせないためだ。同科長らはこうした訓練を予防医療として広げようと、17年に「嚥下トレーニング協会」を設立。神戸と東京に教室を開いて指導している。普段は何気なくしている「飲み込む」という動きは実は複雑だ。浜松市リハビリテーション病院の藤島一郎院長は「脳の延髄に中枢があり、大脳がコントロールして口や鼻、のど、食道などの器官をタイミング良く動かすことでせき込まずに飲み込めている」と説明する。
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