ほてり・発汗・不眠…がんで卵巣摘出後の不調、ホルモン補充で改善ほてりや発汗、不眠――。がんで卵巣を摘出した後、こんな不調に悩む人は多い。神奈川県のA子さん(53)は担当医に訴えたが、「仕方がない」と受け流された。ホルモン補充療法で改善する症状だが、医師の間には「がんの再発リスクを高める」という考えが根強い。しかし最近、その安全性や利点が見直され始めた。(中島久美子)
再発リスク高めず ホルモン補充療法は、卵巣が分泌する女性ホルモンのエストロゲンを薬で補うもので、更年期障害の治療として知られる。卵巣を摘出したために更年期障害と同じ状態になった患者にも効果がある。2012年に手術を受けたA子さんには、医師からその選択肢は示されなかった。「ホルモン補充療法を知らされない患者は多く、根拠のない高額な民間療法に走ってしまう人もいる」。全国の患者と交流してきたA子さんの実感だ。がん患者の場合、再発の心配から、この治療法を避ける医師は多い。子宮体がん(子宮内膜がん)や卵巣がんの多くはエストロゲンにより進行し、子宮 頸けい がんの一部にもその可能性があるためだ。そもそもホルモン補充療法は乳がんなどのリスクを上げる、という研究報告が02年、米国で出たことも安全性への疑念を広げた。ただ、この研究は調査対象などに問題があり、最近になって、リスクを上げるといっても飲酒や肥満と同レベルだとわかった。がん患者がホルモン補充療法を受けても、再発リスクは上がらないとの研究結果もこの5年で相次ぎ報告されている。ホルモンの補充が、むしろ長期的な健康維持に役立つこともわかってきた。エストロゲンは骨を丈夫にし、血管の柔軟性や代謝、精神の安定を保つ。卵巣を失い早く閉経した女性は骨粗しょう症や脂質異常症になりやすいが、薬でエストロゲンを補えば予防できる。
指針で推奨明記 日本産科婦人科学会と日本女性医学学会は昨秋、ホルモン補充療法の診療指針を改定し、婦人科がんの治療をした患者にも勧めることを明記した。ただし、薬の説明書である添付文書では今も「禁忌」扱いで、治療に精通した医師の診断が重要になる。東京歯科大市川総合病院(千葉県市川市)産婦人科教授の高松潔さんは、「がん患者のホルモン補充療法は、がんの状態や治療の状況、不調の程度を考え合わせ、医師とよく相談して決めてほしい」と話す。A子さんは、「患者自ら情報収集することも大切」と助言する。詳しい医師を調べるには、日本女性医学学会のサイト(http://www.jmwh.jp/)にある「女性ヘルスケア専門医」のリストが役立つ。NPO法人「女性の健康とメノポーズ協会」は、毎週火、木曜に電話相談窓口(03・3351・8001)を開設。最新の医学情報やカウンセリングを学んだ相談員が対応している。
【ホルモン補充療法】英語の略称でHRT(HormoneReplacementTherapy)とも呼ばれる。使う薬は錠剤、貼り薬、塗り薬があり、卵巣を失った後の症状や更年期障害の治療薬として保険が利く。子宮がある女性は、別の女性ホルモン剤(黄体ホルモン)も併用する。
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