(エーブィエ バイオファーム)遺伝性乳がんは若年で発症する傾向にあり、再発しやすいのが特徴。リムパーザの承認で治療は大きく前進することになりますが、同時に患者は遺伝性がんであるがゆえの難しい状況に直面することになります。 リムパーザによる治療を受けるにはまず、血液検査でBRCA1/2遺伝子に変異があるかどうかを調べる必要があります。遺伝子検査に使うコンパニオン診断薬として「BRACAnalysis診断システム」が承認されており、すでに保険適用もされています。 BRCA遺伝子検査の流れの図。リムパーザの処方を検討→検査の事前説明→遺伝医療(臨床遺伝専門医/認定遺伝カウンセラー)→インフォームドコンセント→BRCA遺伝学的検査(血液検査)[BRACAnalysis診断システム(保険適用)]結果が出るまで約3週間→結果の説明。陽性の場合、リムパーザ。陰性またはVUSの場合、抗がん剤治療。 コンパニオン診断はあくまで治療薬の選択のために行うものですが、「得られる結果は遺伝性腫瘍の診断を目的とした検査で得られるものとまったく同じ」(桜井晃洋・札幌医科大遺伝医学教授)。陽性となった場合、リムパーザによる治療という新たな道が開ける一方、遺伝性がんであることがわかり家族もがん発症のリスクに直面することになります。
「非専門医にも手伝ってもらわないと回らない」 「子どもへの遺伝は」「親族にどう伝えたらいいのか」――。患者は闘病のさなか、家族への影響という新たな悩みを抱えることになります。患者・家族への十分な説明や心理的・社会的な支援が欠かせません。 こうしたときに重要となるのが「遺伝カウンセリング」ですが、それを担う人材は圧倒的に不足しています。臨床遺伝専門医は全国に1316人(18年7月19日現在)、認定遺伝カウンセラーは226人(17年12月現在)にとどまります。 アストラゼネカは、年間1万人程度が診断される進行・再発乳がん患者のうち、最大9000人程度がBRCA遺伝子検査を受けると想定。「一般の遺伝を専門としない医師や看護師にも遺伝医療の入り口の部分は手伝ってもらわないと回らない」(桜井教授)のが実情です。BRACAnalysis診断システムによる遺伝子検査は、保険適用に際して、診療報酬上の「遺伝カウンセリング加算」の届け出を行っている医療機関か、こうした医療機関との連携体制を持つ医療機関で行うこととの条件がつけられています。遺伝カウンセリング加算の届け出を行っている医療機関は全国で131施設(16年7月時点)ありますが、連携となるとどこまで広がるのか、アストラゼネカも把握し切れていないといいます。メーカー側もまだ手探りの状況です。
「『こんなことなら検査しなかったのに…』は問題」 懸念されるのが、事前の説明が不十分なまま検査を受け、結果的に遺伝性乳がんであることがわかってしまうケースです。アストラゼネカの木原稔之・乳がん領域マーケティングマネジャーは「検査のあとに『そんな話は聞いてなかった』『そんな話なら検査しなかった』と患者に言われるのが一番問題」と指摘。同社は医師と患者それぞれに向けて遺伝性乳がんやBRCA検査に関する資材を用意し、承認の日からMRが情報提供にあたっています。慎重な対応が求められる遺伝性乳がんの治療ですが、「だからといって検査をするなということではない。最善の治療があるならそれを患者に提供できるようにするのは医師の努め」と桜井教授は話します。国内では2016年8月、日本人類遺伝学会と日本乳がん学会、日本産科婦人科学会が連携し、日本遺伝性乳がん卵巣がん総合診療制度機構(JOHBOC)が発足。今年4月からは、遺伝性乳がん・卵巣がんの診療ネットワークの構築を目的とし、診療体制の整った医療機関を認定・公表する仕組みが動き出しました。人材育成や遺伝性がんへの理解向上も含め、診療体制の整備を急がなければなりません。
No comments:
Post a Comment