2018年06月25日 レッド・オーシャン(redocean)という言葉がある。ビジネスの世界で、血で血を洗うような激しい戦いを強いられる市場のことを指す。反対にブルー・オーシャン(blueocean)とは、新商品の投入などによって切り開かれる競争相手のいない(少ない)市場のことをいう。誰しもブルー・オーシャンで仕事をしたいものだが、現実は思い通りにならない。そもそも自由競争の社会はおのずとレッド・オーシャンに行き着く要素をはらんでいる。ブルー・オーシャンにいたとしても、いずれは手ごわいライバルが後を追い掛けてくるからだ。ブルー・オーシャンを志向するには、企業や事業者は常に顧客の需要を先取りし、世の中の役に立つ新技術を開発することによって市場をリードしなければならない。これが成長戦略の基本であり、わが国の産業政策や経済政策もそこに焦点を合わせなければならないはずだ。ところが、安倍政権の掲げるアベノミクスや地方創生では、ブルー・オーシャンではなく、業界や関係者をレッド・オーシャンに突き落としたり、導いたりしているとしか思えない政策が目につく。例えば、金融政策である。アベノミクス第一の矢による超低金利の長期化は銀行をはじめとする金融機関を苦境に陥れている。その結果、かつては自地域内での営業を心掛けていた地方銀行も、今や仁義なき「越境融資」に余念がない。低金利を武器とする顧客争奪はまさしくレッド・オーシャンでの消耗戦である。
"ふるさと"競争 地方創生に位置付けられている「ふるさと納税」も典型的なレッド・オーシャンである。財政難に苦しむ自治体は「ふるさと納税」を通じてできるだけ多くの寄付を呼び込もうとする。誰かがどこかの自治体に、例えば3万円寄付すれば、その人の住所地で納める税が2万8000円安くなる。寄付額のうち2000円を超える額が住所地から寄付先の自治体に移る仕組みである。その際、寄付先はふるさとであろうとなかろうと、どこでも構わない。そんな仁義なき奪い合いである。自治体は手をこまぬいていたら税を奪われるだけだから、あの手この手で寄付を呼び掛ける。魅力的な返礼品を設けて他の自治体より優位に立とうとする。それが功を奏していっとき多額の寄付を集めることができても、他の自治体も必死だから、すぐにまねをされるし、より魅力的な作戦の出現によってたちまち優位性を失う。
疲弊招くことに 本紙でもふるさと納税を通じた地域振興の話題を目にする。一生懸命取り組んでいる自治体の努力に水を差すつもりはないが、結局はヘトヘトになるだけだ。自治体をレッド・オーシャンに駆り立てるのではなく、地道かつ着実に地域づくりに取り組める環境を整えるのが国の役割であるはずだ。ふるさと納税の廃止を訴えるゆえんである。<プロフィル>かたやま・よしひろ 1951年岡山市生まれ。東京大学法学部卒。自治省に入省し、固定資産税課長などを経て、鳥取県知事、総務相を歴任。慶應義塾大学教授を経て2017年4月から現職。『民主主義を立て直す日本を診る2』(岩波書店)など。
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