Wednesday, June 27, 2018

(エーブィエ バイオファーム) HER2陽性乳癌の術前・術後治療は化学療法+2種類の抗HER2薬に期待


化学療法+トラスツズマブ+ペルツズマブが使われる可能性 八倉巻尚子=医学ライター 2018/6/27 積極的な技術開発により乳癌治療は常に変化している。診断精度の向上で癌が小さいうちに発見されるようなり、乳房を切除した場合も再建術によって整容性を保つこともできるようになってきた。放射線照射による晩期の副作用も以前に比べて軽減している。多くの新薬が登場して一人一人に合った治療法を選べるようにもなっている。次々に加わる新しい情報をアップデートすることは医療者にとっても患者にとっても大変だが大切なことだ。5月に京都で開催された第26回日本乳癌学会学術総会では、乳癌の診断や治療について最新の知識を共有することを目的に、患者セミナー「皆で考えよう、未来の乳がん医療」が開催された。その中から、手術療法、放射線療法、薬物療法について連載で紹介する。第4回はホルモン感受性乳癌、HER2陽性乳癌の薬物療法。薬物療法については、トリプルネガティブ乳癌とホルモン感受性乳癌・HER2陽性乳癌の2つに分けて講演が行われた。ホルモン感受性乳癌・HER2陽性乳癌の薬物療法を担当したのは、埼玉県立がんセンター乳腺腫瘍内科の永井成勲氏。術前治療と術後治療に関して、現在の治療法と今後期待される治療の効果と副作用を解説した。

化学療法+トラスツズマブ+ペルツズマブの術前治療で癌を消失 HER2陽性乳癌に対して現在行われている術前治療は、化学療法に加えてトラスツズマブを投与する治療法である。トラスツズマブをはじめとする抗HER2薬は乳癌細胞の表面にあるHER2受容体に結合して癌細胞の増殖を抑制するが、HER2 受容体は心筋細胞にもあるため、抗HER2薬によって心毒性が起こるといわれている。しかし、化学療法とトラスツズマブの併用で「心毒性が増えることはなく、病理学的完全奏効が増える、すなわち顕微鏡で癌が消失していることが観察されている」と永井氏は説明した。HER2陽性乳癌で癌が消失した群は消失しなかった群に比べて、無再発の割合が高いという報告もある(Cortazar P, et al. Lancet 2014)。そこで術前治療としてより優れた治療を探すため、標準治療である化学療法+トラスツズマブと、化学療法+他の抗HER2薬、化学療法+2種類の抗HER2薬を比較する試験が行われた。ここで登場してくるのが、再発乳癌に使われている別の抗HER2薬のペルツズマブである。ペルツズマブもトラスツズマブと同様に、HER2受容体に結合するが、結合部位が異なる。また「癌細胞に有利な信号を送るには、仲間の受容体とカップルを形成する必要があるが、ペルツズマブはこのカップル形成を阻害し、より効果的にHER2の信号がブロックされる」(永井氏)。原発巣が2cm以上でHER2陽性の早期乳癌、局所進行乳癌、炎症性乳癌を対象に、「ドセタキセル+トラスツズマブ」を標準治療として、「ドセタキセル+トラスツズマブ+ペルツズマブ」、化学療法を用いない「トラスツズマブ+ペルツズマブ」、「ドセタキセル+ペルツズマブ」が比較された(NeoSphere試験)。その結果、標準治療の「ドセタキセル+トラスツズマブ」では「3分の1の人で癌が消えた」(Gianni L, et al. Lancet Oncol. 2012)。そこにペルツズマブを加えると、病理学的完全奏効の割合は45.8%と高くなった。一方で、「ドセタキセル+ペルツズマブ」は標準治療より病理学的完全奏効の割合が低かったため、「トラスツズマブからペルツズマブへの置き換えは有効でない」。さらにホルモン受容体陰性、陽性で分けると、すべての治療群でホルモン受容体陰性の患者のほうが効果は高かった。HER2陽性でホルモン受容体陰性の場合、病理学的完全奏効の割合が最も高かったのは「ドセタキセル+トラスツズマブ+ペルツズマブ」で、6割以上で癌が消失した。 また標準治療に比べて、ペルツズマブを併用しても副作用が増えることはなかった。「ペルツズマブもHER2をターゲットとした薬剤なので、心毒性が懸念されるわけだが、術前治療としてペルツズマブを加えても心毒性が増えることはなかった」。日本でも試験が行われており、「ドセタキセル+カルボプラチン+トラスツズマブ+ペルツズマブ」で、病理学的完全奏効の割合は56.9%、さらにホルモン受容体陰性の患者では7割を超えた(Masuda N, et al. ESMO2017, PD159)。そのため、「最新の術前治療として、化学療法+トラスツズマブ+ペルツズマブは病理学的完全奏効の割合を向上させ、心毒性の増悪はない」と永井氏は話した。

術後治療でもペルツズマブの併用が期待される 術後治療でも現在行われているのは、化学療法に加えてトラスツズマブを1年間投与する治療法である。これまでの複数の試験データから、トラスツズマブの併用で再発リスクを約40%下げ、死亡のリスクを約35%下げることがわかっているが、心不全の発生率は約2%高くなるという。また「トラスツズマブ1年投与には限界もある」。トラスツズマブ術後治療の臨床試験(HERA)の11年間の結果から、術後1年投与と術後2年投与では再発割合に違いがなかった(Cameron D, et al. Lancet 2017)。さらに「長期間観察すると、4人に1人は再発してくるという現実がある」と永井氏は述べた。そのため、化学療法に他の抗HER2薬を加える、あるいは化学療法に2種類の抗HER2薬を加える、さらに標準治療の後に他の抗HER2薬を投与する治療法が検討された。その1つは、ペルツズマブを用いた試験であり、標準治療である「化学療法+トラスツズマブ」にペルツズマブ1年投与を加える治療が試みられた(APHINITY試験)。この試験には日本も参加している。 昨年途中経過が報告され、ペルツズマブ追加で無再発割合はやや改善することが示された(von Minckwitz G, et al. N Engl J Med. 2017)。「HERA試験のトラスツズマブの結果と比べても差は小さいが、科学的には差が認められた」。またリンパ節転移のある場合とない場合に分けると、リンパ節転移がある場合は2群間に統計学的に有意な違いがあったが、リンパ節転移がない場合は違いが見られなかった。ペルツズマブの術後1年投与における副作用は、皮疹の頻度が5.5%増え、重度の下痢(グレード3以上)が6.1%増えるが、化学療法終了後のグレード3以上の下痢は0.5%であり、心毒性の頻度は低かった。ペルツズマブの術前・術後治療については「乳癌診療ガイドライン」2018年版でも触れている。まだデータが限られているため、「今後の重要な課題」という位置付けだが、「HER2陽性乳癌の周術期治療にペルツズマブを併用することは推奨されるか?」(FQ5)という質問項目が設定され、これに対して「再発リスクの高い症例でのペルツズマブ併用療法の有用性が示された」と記載されている。ただし観察期間がまだ短いので、「全生存期間の延長効果は今のところ明らかではない」とも書かれている。別の治療法としては、標準治療の後にneratinib(ネラチニブ)という他の抗HER2薬を投与する方法が検討されている。neratinibHER1HER2HER4を不可逆的に阻害する経口のチロシンキナーゼ阻害薬で、日本では承認されていない。手術をして、「化学療法+トラスツズマブ」による術後治療が終わった患者を対象に、neratinibあるいはプラセボ(偽薬)を投与する試験が行われた。その結果、プラセボ群に比べてneratinib群の無再発の割合は5年で2.5%改善した(Martin M, et al. Lancet Oncol. 2017)。ホルモン受容体陽性と陰性に分けると、ホルモン受容体陽性では2群の差は顕著だが、陰性では差がなかった。副作用は、治療の中止や休薬が必要なグレード3/4の下痢が4割に認められた。「下痢の頻度が高いのが1つの問題点だが、他の副作用は2群で差がなかった」(永井氏)。したがって、「最新の術後治療として、化学療法+トラスツズマブ+ペルツズマブ、あるいは化学療法+トラスツズマブの後にneratinibを投与することによって、再発率を下げることができる」と永井氏は話した。ペルツズマブの術前治療は米国で2013年に迅速承認され、欧州では2015年に承認されている。ペルツズマブの術後治療は欧州で20178月に承認申請、米国では201712月に再発高リスクの術後治療で承認され、さらに術前治療でも通常承認された。日本では201710月に「HER2陽性の乳癌における補助化学療法」で承認申請をしている。「近いうちに日常診療にこの治療が入ってくるだろう」と永井氏は話す。neratinibの術後治療は米国で2017年に承認され、欧州では再審査中の状況だ。


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