皮膚瘙痒症は発疹を認めないにもかかわらず痒みを 訴える疾患である.全身に痒みを生じる汎発性皮膚瘙 痒症は腎不全,肝障害,血液疾患をはじめとする種々 の基礎疾患に伴うことが多い.長期にわたる強い痒み によって患者が受ける精神的苦痛は非常に大きい.ま た,就眠,就業などの日常生活に支障をきたし QOL を著しく低下させる. 痒みの発症機序はいまだ十分に解明されていない. 広く用いられている抗ヒスタミン薬(H1 受容体拮抗 薬)が奏効する症例は汎発性皮膚瘙痒症患者の一部に すぎず,その対応や治療に苦慮する疾患となっている. そのため症状と重症度に応じた適切な診療・治療指針 が必要となっている.
ガイドラインの位置づけ 難治性慢性痒疹・皮膚瘙痒症診療ガイドライン作成 委員会は,平成 21 年度難治性疾患克服事業「難治性慢 性痒疹・皮膚瘙痒症の病態解析及び診断基準・治療指 針の確立」研究班(班長:横関博雄)として発足し, 日本皮膚科学会から委嘱された委員によって構成され たものである.本委員会で作成されたガイドラインは 現時点の我が国における皮膚瘙痒症の診断・治療指針 を示すものである.
1,分類 皮膚瘙痒症の概念 皮膚病変が認められないにもかかわらず瘙痒を生じ る疾患.(但し掻破により二次的に掻破痕や色素沈着を生じ ることがある.) 皮膚瘙痒症の分類 ①汎 発 性 皮 膚 瘙 痒 症 Pruritus cutaneus universalis ほぼ全身に痒みを生じるもの ②限局性皮膚瘙痒症 Pruritus cutaneus localis 体表面の限られた部位に痒みを生じるもの.
4,病態,発症機序 汎発性皮膚搔痒症の痒みは一般に抗ヒスタミン薬に 抵抗を示すことが多い.その原因として,ヒスタミン 以外の起痒物質(トリプターゼ,サブスタンス P,IL1,-2,-6,-31,TNFα,活性酸素,ECP,MBP など)の関 与,表皮内神経線維の直接刺激,オピオイドの関与, H4R の関与などがあり,疾患によりこれらのいずれか が痒みの原因となっていると考えられる).以上のご とく汎発性皮膚瘙痒症の痒みの原因は多岐にわたって いるが,皮膚の乾燥に由来する場合,服薬している薬 剤が原因で生じている場合,何らかの基礎疾患に伴う 場合のつに大別される).このうち最も多いのが皮 膚の乾燥(ドライスキン)に由来する場合である.ド ライスキンは老人性乾皮症のように代謝機能の低下に 低湿度などの環境要因が加わって生じる場合と種々の 基礎疾患に伴う場合がある.ドライスキンとは皮膚のバリア機能の低下,角層水分保持能の低下,水分蒸散 量の増加により,角層水分含有量が低下した潤いのな い皮膚をいい,乾皮症,老人性皮膚瘙痒症,胆汁鬱滞 性肝疾患,腎不全,血液透析患者,甲状腺機能低下症, HIV 感染症,アトピー性皮膚炎などの患者で見られる.角層の水分保持には皮脂膜,角質細胞間脂質,天然保湿因子の つの保湿因子が関与している.近年, ドライスキンの形成にフィラグリンの遺伝子異常が関 与していることが報告されている).これら保湿因子 のうちいずれかが減少した皮膚に,代謝機能の低下, 湿度の低下,過剰洗浄などの環境因子が加わることに よりドライスキンが形成される.ドライスキンではバ リア機能が低下しており軽微な刺激に容易に反応するようになる.ドライスキンの痒みの原因として神経線 維(C 線維)の表皮内侵入と表皮内スプラウティングが あり,このため痒み閾値の低下が生じ容易に痒みが惹 起される.C 線維の表皮内侵入には神経伸長因子 (NGF,Amphiregulin, Gelatinase)と 神 経 反 発 因 子(Semaphorin 3A,Anosmin)が関与しており,汎発性 皮膚搔痒症などドライスキンを呈する皮膚では神経伸 長因子の発現増加と神経反発因子の低下が観察され る薬剤性皮膚搔痒症の頻度は少ないが,原因を特 定できない場合にはその可能性を考慮する必要がある.作用機序は薬剤のヒスタミン遊離作用や I 型アレ ルギー機序による.オピオイドの関与は透析患者や胆 汁鬱滞性肝疾患で認められる.これらの患者では痒み 誘発系の μ―オピオイド系が痒み抑制系の κ―オピオイ ド系より優位になっているために痒みが生じている. オピオイドは表皮ケラチノサイトにも発現しており, アトピー性皮膚炎の皮膚では μ―オピオイド系が κ―オ ピオイド系より優位になっていることから,末梢組織 でも痒み発現に関与している可能性が考えられてい る7).その他,汎発性皮膚搔痒症の基礎疾患により種々 の起痒因子が推定されている
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